伝染する激情ーー「さよならジャバウォック」【読書感想】

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 この度、伊坂幸太郎氏の著書「さよならジャバウォック」を読みました。

 最近読書を始めたと言うこともあり、伊坂氏の名前は知っていたものの、まともに作品に触れたのは今回が初めてでした。

 しかし、「夫は死んだ。死んでいる。私が殺したのだ。」この文言が書かれている帯に興味を持ち、手にすることとしました。

 サスペンスから転じてミステリーとなる展開に引き込まれ、主人公が感じる違和感や、前後する時間軸に散りばめられた伏線に驚かされます。

あらすじ

 量子は夫を殺した。故意にではない。その日、夫が突然手を上げてことに対しての自己防衛であった。しかし、自身が殺害してしまったことに混乱と恐怖を感じ、茫然自失してしまう。

 そんな中、最近再会した大学時代の後輩・桂凍朗が現れる。

 彼は言う、「大丈夫です。万事うまくいきます」と。

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 斗真はある問題を抱えていた。

 自身がマネージャーをしている伊藤北斎の娘・歌子の精神状態がおかしくなっていたのである。

 治そうと精神科から怪しい宗教まで手を出したが、どれも成果は上がらず。

 そんな時、破魔矢と絵馬という二人から話を持ちかけられる。

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 怪しい言動を残す大学時代の後輩、突如現れた謎の二人組、そして「ジャバウォック」。

 降りかかる謎、付きまとう違和感の正体が明らかになる時、その裏にある思惑が浮かび上がる。

臨場感あるミステリー

 主人公・量子が夫を殺めるという衝撃的な出だしから、サスペンスが展開されるかと思われたが、その後は様々な謎が次々に現れ、ミステリーな要素が増えてくる。

 襲い来る謎に包まれ混乱する量子の描写は、同じく何も分からない読者に臨場感を与える。

 間に入る、少し落ち着く場面や斗間の視点からの寒暖差が、さらにそれを助長するようだ。

 また、場面ごとの心理描写や状況の描写が一つ一つ細かく書かれているため、読者の想像力を掻き立て、より一層作品への没入感を高めてくれる。

 主人公の主観と周りとの認識のズレの解消や明かされる事実により、徐々に真実に近づいていく展開は興味を惹きつけられ、ミステリーとしての王道と感じる。

描かれる脅威と本当に恐ろしいもの

 本作では、「ジャバウォック」と呼ばれる明らかな脅威が登場する。

 「ジャバウォック」の性質は、簡単にいうと人間の持つ激情を刺激するというものだ。

 ただ、それはあくまで本来人間の持つ残忍さともいうべき感情を刺激しているに過ぎないものでもある。

 作中に、人間の残忍さを否定したいがために「ホルモンのせい、ジャバウォックのせいであれば」という旨の思想を持つものが登場する。

 確かに世の中に溢れる闘争は人の本質のせいではない、何かのせいであると言えればどんなに楽なのだろうとも思う。

 しかし、元はやはり人の性質によるものであるのならば、我々はそれとどう向き合い、生きていかなければならないかが重要だ。

 本作からは、そんなメッセージも感じられるようである。

総評

 始めこそいろいろな情報が一気に出てくるが、順序よく物語が展開していくため深みやメッセージ性も感じられる中、非常に読みやすい。

 また、感情表現などが場面ごとに丁寧に描かれるため、その場面を思い描けるような臨場感ある作品でした。

こんな人におすすめ

・サスペンス、ミステリー好きな人

・「ジャバウォック」というものの性質から、SF好きや幽霊・妖怪の類を扱う小説が好きな人も興味が持てると思われる

・狭い空間で展開されるものではなく、人物が広く積極的に動いていることから、アクションを含む臨場感のある作品が好きだという人にも刺さるかも

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