湊かなえ氏最新作。
弱い立場の人間が、自らの意味を見出そうと声をあげ、巨悪に挑もうともがく切ない物語。
物語は、ある事件の犯人の逮捕から話は始まる。
前半と後半に分けられて語られる本作は、前半の犯人の口頭での供述で語られ、後半は心情描写も含めた背景を小説風に語られる形式で記される。
後半を読んだ後に前半を読み返すと、また違ったものが見えてくる。
果たして、「想像力」は人を殺すか、はたまた救うのかーーー。
供述の前半と小説の後半
本作は、ある事件が起こった後、その事件の犯人の供述から始まる。
内容としては、その男の供述を段階的に追って、掲載される記事調に書かれていくというもの。
その犯人は、事件を起こすに至った理由と自身の想いを述べていく。
投稿記事として書かれているため、途中に関係者や世間の声なども挿入され、それに対して犯人の男が意見を述べるところもあり、嫌に生々しい描写である。
これだけを見ると割と淡々と、しかし赤裸々に全てを語っているようにも見える。
しかし、後半を読んだ後だと、この印象はかなり変わってくる。
後半は、犯人の男と知り合いの女性の物語で、小説調に書かれる。
彼女は、男と数回しか会ったことはないが、深い絆で結ばれている者で、その二人が出会った場面がそれぞれ描かれる。
小説として描かれているので、前半では描けなかった心理描写や、彼らの背景などが細かく描かれている。
この描き方の違いからも、前半部分の男の発言が表面的なものでしかなかったということに気付かされ、その裏にある心情なども想像でき、読んだ前と後で前半の記述に持つ印象が大きく変わる。
復讐の物語をどう捉えるか
物語の根底には、あるものに対する復讐が置かれている。
それに基づいて行われたのが、序盤に発生した襲撃事件である。
ただ、この事件は加害者が怨嗟のために、一個人に対して行った復讐ではない。
加害者の男は、自身が見舞われた不幸に対して、その不幸はなぜ起こったのか、それらの大元となる原因は何か、その大元の被害に遭った自分達のような人間を作らないために自身は今何をすべきかを考えて思い至ったのが冒頭の事件であったと明かす。
つまり、世に蔓延る闇に一石を投じるために起こした事件であるということであった。
この供述が記事として公開された後の描写には、被害妄想であるというような言われようもされ、殺人鬼の狂言とされている節もあった。
記事調で書かれているものなので、私がもし、これを現実で読者の一人として読んだら、おそらくは前述の感想を抱いた可能性が高いと思わます。
ただ、後半に書かれた本当の背景により、その供述が彼の様々な想いと、大切に思う人達に対する本物の想いに基づいたものだと分かる。
後半を踏まえた後に、これに対して思うことは人それぞれだろう。
その想いを崇高な意志と見て、同情する人もいるかもしれません。
あるいは、それでもやったことは間違いであると糾弾する人もいらっしゃるでしょう。
ただ一つ、彼は決して短絡的な、もしくは独善的な正義感のみで動いた訳ではないということは真実である。
これを読んだあなたは、どのような感情を抱くでしょうか?
想像力
想像力に関して考えさせられる作品でもある。
主人公たちに降りかかる試練も、曰く想像力の問題であるということが度々述べられる。
気持ちをうまく言葉にできない主人公が、周りの「想像力を欠く」者達から、理解できない者とされ、勝手にそういう気質なのだと決めつけられ扱われる。
しかし、自身は相手の立場や想いを深く想像してしまうが故に、傷つけまい、輪を乱すまいとして口をつぐんでしまう。
暁闇(前半)にしろ金星(後半)にしろ、主人公はそのような状況に度々陥り、苦心する。
本作では、この想像力の欠如が悪であるという描かれ方をしている。
想像力の欠如とはつまり、相手のことを自身のモノサシでしか測らず、こうであると決めつけるものとして描かれていると思われる。
前半の暁闇に出てくる、記事に対してのコメントは、まさしくそれであり世に溢れる誹謗中傷などもこういう所から来るのだと考えさせられる。
ただ、読後に改めて考えを巡らすと、想像力がありすぎても問題であると感じる。
主人公達のように閉口して損を被るというのも確かだが、それと同時に確たる想いや正義を自身に定義できなくなるというのも確かである。
決めつけというのも、言わば自身の防衛本能の一種のようなもの。
全てを思案しっぱなしでは、主人公達のように何もモノが言えないどころか、何も信じることさえもできないというジレンマに陥ってしまう。
どちらか片方に寄ってしまえば、どちらにせよ何かを見失う、そのように思える。
しかし、個人的にはやはり自分の視点だけでなく、今より少しでも他者の視点を想像してみるべきであると、本作を読んだ後には感じました。
総評
あるべき正しい姿だけでなく、社会の闇や人間の本質についても考えさせられる作品です。
また、暁闇と金星の切ない関係というのも、物語として印象深いもの。
考えさせられる事と印象に残る物語で、読後も余韻が残る作品だと感じます。
「深い余韻に包まれる唯一無二の物語」と銘打たれてますが、それに違わぬ作品でした。
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さて、この記事を書いてるのが年末ということもありますので、作品に出てきたカレーと餅にちなんで、今年は「餅入りカレー蕎麦」で年を越したいと思います。(本編で出てきたものとは全く異なりますが。)
良いお年を


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