この前のお口直しということで、「果てスカ」と同日公開された作品を観てきました。
倍償千恵子さんと木村拓哉さん主演、『パリタクシー』を原作とした本作。
主要人物はタクシー運転手と、そのタクシーに乗った老齢のマダム。
マダムから語られる過去、そして二人の現在での交流を通して物語は進行していく。
構成に無駄がなくて観やすく、内容も史実の出来事を絡め語られる過去や、今紡がれる二人の関係に惹きつけられるものがありました。
あらすじ
タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は、85歳の高野すみれ(倍償千恵子)を東京・柴又から神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになった。
すみれの「東京の見納めに、いくつか寄ってみたいところがある」という頼みを受けた宇佐美は、すみれの指示で各地へタクシーを走らせる。
旅を共にするうち、次第に心を許したすみれから語られたのは、彼女の意外な過去だった。
タクシーの運転手と客として偶然出会った2人の心、そして人生が大きく動き始める。
ノスタルジーに浸る脚本
おおよそはすみれの過去の話と、それに関わる場所を巡る情景で進行していく。
このすみれさんが結構壮絶な過去を過ごしているのですが、過去に実際にあったことを含めた時代背景というのもあり、何となく現実味があり没入感の出る内容です。
また、現在における浩二とのやりとりも、温かみのある中に哀愁のようなものも感じられ、郷愁のようなものが形作られていく様子に引き込まれました。
余分を削いだ構成
余分なことが少なく、見やすい構成。
映像としてあっても良さそうな部分もいくつかあるのですが、あくまで主役二人の主観と、二人の間にある関係というものにフォーカスされています。
すみれの過去には本人の主観以外は、大きな出来事であっても言葉だけで終わらせていて、映像としての情報は少ない。
現代においても、浩二には家族・家計の問題があるが、あまり拗れたりせずライトな感じで終わらせている。
主流となる浩二とすみれのやり取り以外の要素ができる限り削られているので、二人の交流に集中して作品全体を観れました。
物語に溶け込むキャスト陣
倍償千恵子さん・木村拓哉さんをはじめ、ベテラン中心で構成されているキャスト陣です。
こういう人たちは地味な役柄を自然に演じ、物語に溶け込ませるというのが上手いと素人ながらに思います。
・木村拓哉
この人といえば、かっこいい男の代名詞。(私の世代では)
ドラマ等でやる役割も、それに準じてカッコイイキャラ・主役が多いという感じ。
しかし本作で演じるは、くたびれたタクシー運転手。
木村拓哉たる演技ではありましたが、個人的には役柄の渋さとちょうどよくマッチしており、いい味の出ている役であると感じます。
正直、今の木村拓哉さんはかっこいい役ではなく、こういう渋めの役をどんどんやってみてほしい。
・倍償千恵子
毅然として気難しく、けれども話しているうちに徐々に態度は柔らかくなっていき、時には弱い部分も見せる。
書き出していくと複雑な役柄であったことが伺えますが、この辺を自然と演じられるあたり、役者としての凄みを感じました。
映画館で観るべきか?
映画を映画館で観る意義は何か?
私にとっては、大画面で観る意味があるほど迫力のある映像か、あるいは大音響で聴く価値のある音楽・音響であるかが、あの広い空間で映画を観る意義であると感じます。
それで言うと、本作はその意義としては少し弱いように思います。
内容的に上記の要素を求めるのは酷ではありますが・・・。
個人的には、日常に流れる音を大きめの音響で聴くというのも心地よいというのはあります。
ただ、映画館にあえて足を運ぶべきものかというと、この点においては少し疑問が残ります。
総評
全体の流れとしては、最後以外は大きな出来事で揺さぶられる事もなく、それこそタクシーに揺られながら景色を眺めたり雑談をするように、ゆったりと物語が進行していくものです。
それに加え、飲み込みやすい構成とキャスト陣の味のある演技で、観やすく良い作品でした。
これを映画館で観るべきかというのは個人の感性に依るところだと感じますが、観て損はないと思います。
評価
・評点 ・・・ 3.5 / 5
・映像・音響 ・・・ 3 / 5
・脚本 ・・・ 4 / 5
・キャスト ・・・ 4 / 5


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