15年ぶりの『トロン』シリーズ最新作として、公開された「トロン:アレス」。
私は正直いうと、ゲーム「キングダムハーツ2」における「トロン」しか知りませんでした。
しかし、そこで触れた世界観が気に入ったため、今回初めて映画作品を観てきました。
結論としては、音楽は世界観を表していて非常に良いものですが、脚本を始め、他はかなりがっかりな内容でした。
音楽に引き込まれる
本作の音楽は素晴らしい。
デジタル空間の雰囲気と疾走感を醸し出す音楽は、イメージ通りの『トロン』の世界観を見事に表現しており、一つ一つのシーンを盛り立てる。
重低音・電子音が心地よく響き、これだけで映画館で聴く価値は充分にある。
目を閉じてさえいれば、本作は名作と言っても良さそうだ。
AIらしさのない主人公アレス
本作の主人公で、AI戦士。
彼の物語としては、AIとして命令された任務をこなしていく中、徐々に感情が芽生えていき、その中で葛藤しながら自身の信じる道を見出していく
要するに「AIに感情が芽生える」というテーマにしたいのだと思われる。
だとすれば、感情表現というのはかなり大事なところ。
つまり物語が進むにつれアレスの表情や反応、言葉遣いに至るまで、徐々に変化していく様を表現することが、このテーマを示す肝であると感じる。
しかし、ジャレッド・レト演じるアレスは残念ながらそれが無い。
演技は終始一本調子で、初めから最後まで”感情の薄い、浮世離れしたおじさん”という印象。
最初と最後を並べてみても、目立った変化は見られないように感じる。
演技指導が悪かったかもしれないし、正直演技の良し悪しはよく分からないが、ジャレッド・レトの実力に疑問を感じざるを得ない内容となってしまっている。
AIの中に芽生える人間らしさを出そうとしたのかもしれないが、そのせいで本来のAIという設定がぼやけてしまっていると感じる。
メアリー・スー系主人公イヴ
本作もう一人の主人公。
エンコム社の研究者。ケヴィン・フリンが残した「永続コード」を手に入れたことから、ジュリアン・ディリンジャー率いるディリンジャー社に狙われることとなる。
彼女を一言で言うとメアリー・スー系主人公。
頭が良くて強く、判断は常に正しい。ピンチでは天才的な閃きをし、運にも恵まれる。一言言葉を発すれば皆が耳を傾け賛同してくれ、無条件で好感を持たれる。
まさしく完璧超人、こういう人物はメアリー・スーのようなキャラクターと言われます。
日本で言うところの「なろう系主人公」みたいな感じ。
本作のイヴもまさしくそれ。
それはそれで好きな人もいるのでしょうが、(名目上は)葛藤のあるAIとして登場するアレスの対局にある存在なのだから、人としての弱さが強調され葛藤のある人物の方が物語に厚みが増したのではないかと感じる。
敵の方が魅力的
敵側の方がテーマを背負っているように感じる。
・アテナ
無機質に命令を遂行する様は、まさにAI戦士といったかんじ。
また、初期の命令を遂行するために今主人から命令されたことを無視して行動するところは、人とAIの相違が生まれる一端と捉えられる。
主人公たちの活躍のために変なやられ方をしている部分を除いては、AIの頼もしさと脅威を表す魅力的なキャラクターである。
・ジュリアン
ディリンジャー社のCEO。
AI兵士アレスを開発。
AI兵士の29分の活動限界を克服するため、イヴの持つ「永続コード」の強奪を目論む。
手段を選ばず主人公たちに迫ろうとする様は、確かに悪役だ。
しかし、途中アテナの反逆にあったり母親を失うなど、思い通りにならない中で感情を揺さぶられる彼は、ただ堕ちてゆくだけの悪役とするにはあまりにも勿体無い存在に見える。
ジュリアンを見ていると、イヴの方がよっぽどAIっぽい。
このようにしっかりと役が立っている二人を見ていると、どうしても思ってしまうことがある。
主人公勢いらなくないか?
アレスとイヴを始めとする主人公勢全員取っ払って、敵役二人メインで作った方が良かったのでは?
例えば
ジュリアンが自社利益のため、AI戦士アテナを使い裏で悪事に手を染めている
↓
アテナからの反逆に合い、全てを失うジュリアン
↓
自分を信じてくれた数少ない部下や母からの叱責(あるいは「トロン」との出会いなど)により自身を見つめ直し、立ち直るジュリアン
↓
「AIとはどうあるべきか」「あるじを超えるAIの是非とは」という葛藤を抱えるアテナと、人としてAI兵士を作り出したこと、自分のしてきたことと葛藤するジュリアンとの最後の戦い
こんなのの方が良かったんじゃないか。
改めて考えると、主人公勢がノイズでしかなかったと感じる
世界の描き方
個人的に思うところなのだが、本作で描かれる世界は、私のイメージしてた「トロン」の世界じゃなかったと感じる。
確かに本作のCG技術はすごかった。
細かい部分も作られて、非現実でありながらまるで現実にありそうな世界、現実と非現実が混じり合う世界を描いています。
ただ、求めていたのはこれじゃ無い。
私が見たかったのは、「小さい頃に夢に見た、憧れのデジタル世界」だ。
そういう意味で「キングダムハーツ2」やシリーズ初作品の「トロン」(本作鑑賞後に視聴しました)に描かれる世界は、私の見たかったそれでした。
現実の細々とした、うるさい背景の代わりに世界を埋める簡素なシンボル達。
それらを彩る自然色ではない電子の光。
その中を現実ではあり得ない道具を具現化させ、光の速さで駆け、デジタル世界の住人と助け合い、対峙する。
そういうものを私は見たかった。(要は上記二作品に描かれる世界です。)
これは邪推ですが、ディズニーは世界の描き方を軽んじているように思えます。
「デジタルの世界ってきっとこう」という感じではなく、「デジタル世界なんて現実とそんな大差ないべ」と捉えて作品を作っているように感じる。
昨今ディズニーは「夢の世界」から「夢から目覚めた世界」になったなどと揶揄される節があるが、それを疑わざるを得ない部分があるように思えてしまう。
総評:音楽は最高だが、他の要素は残念
「トロン/アレス」は、音楽が世界観を表現できており、疾走感もあって最高です。
しかし、テーマを体現するべき主役二人を始めキャラクターに深みがなく、何が言いたいのかよく分からない作品になってしまっていたと感じます。
また、映像美はあれど描いて欲しいのはそれじゃないという感じがして、個人的にはその辺も残念なところです。
脚本とかどうでもいい、音楽と映像を楽しみたいんだという人は、映画館で観る価値はあります。
しかし、そうでなければ価値ある映画とは言えません。
評価・・・・・ 2 / 5
音楽・映像・・・・・ 4 / 5
脚本・・・・・ 1 / 5
  
  
  
  
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